レイシャルハラスメントとは何でしょうか。 裁判例はありますか。
1 レイシャル・ハラスメントとはレイシャルハラスメント (略称は「レイハラ」)は、「人種や皮膚の色、 祖先、 出身地、 民族的出自、 民族文化、宗教的信条、 国籍等の人種や民族的要素に基づくハラスメント」 と言われています(金明秀 『レイシャル・ハラスメントQ&A』 15頁 (解放出版社、第1版、2018年))。日本ではまだ認知度が低いハラスメントですが、欧米では広く知られているハラスメントの形態です。日本にはレイシャルハラスメント自体を規制する法律はありませんが、1965年に採択された国連の人種差別撤廃条約に1995年に加入しており、この条約は国法の一形式として国内法的効力を有しています。この条約は公権力と個人の関係を規律するものであり、 私人間の関係を直接規律するものではありませんが、その趣旨は民法709条等の個別の規定の解釈運用を通じて実現されるものと考えられています (大阪高判平成26年7月8日判時 2232号34頁)。したがって、レイシャル・ハラスメントは、職場や学校だけではなく、私人間の関係が生じる社会のあらゆる場面で問題になり得ます。2 職場におけるレイシャル・ハラスメント(1) 近年、日本で働く外国人が増加していますが、 たとえば仕事のミスを出身国と結びつけて指摘するような、人種や国籍に配慮を欠いた言動をしてしまうと、パワー・ハラスメントのような言動ではなくても、事業主に損害賠償責任が生じることもあります。 単に特定の人種や民族をからかうようなジョークでも、レイシャル・ハラスメントと認定されることもあります。 したがって、上司と部下の関係だけではなく、同僚間や顧客との関係でも生じることが考えられます。(2) レイシャル・ハラスメントは、セクシュアル・ハラスメントやパワー ー・ハラスメントに比べても取組みが遅れています。 事業主には、他のハラスメントと同様にレイシャル・ハラスメントに関しても、職場環境配慮義務の一環として従業員に対する研修を実施するなどの配慮が必要になると考えます。3 ヘイトスピーチ(1) 近年、特定の人種や民族への憎しみをあおるようなヘイトスピーチも見られますが、 このようなヘイトスピーチもレイシャル・ハラスメントに該当すると考えられます。(2) ヘイトスピーチに関する裁判例として次のようなものがあります。在日朝鮮人の学校を設置・運営する法人が、同学校周辺で前後3回にわたって行われた示威活動とその映像がインターネットを通じて公開されたことによって、 授業を妨害され、名誉を毀損されたとして、不法行為に基づき、市民団体と関係者9名に対し街宣活動の禁止と計3000万円の損害賠償を求めて訴訟を提起しました。裁判所は、同校には在日朝鮮人の民族教育を行う利益があるとした上で、街宣活動は在日朝鮮人に対する差別意識を世間に訴える意図で行われたもので公益目的は認められず、表現の自由により保護されるべき範囲を超えており、街宣内容は人種差別撤廃条約に盛り込まれた「人種差別」に該当し、 同学校の児童が人種差別という不条理な行為で被った精神的被害は多大であるとして、 同学校の半径200メートル以内の街宣禁止と計約1226万円の支払いを命じました (京都朝鮮学校公園占用抗議事件。 最三小決平成26年12月9日、 原審大阪高判平成26年7月8日判時2232号34頁、 一審京都地判平成25年10月7日判時2208号74頁)。また、この示威活動について、 一部の被告は威力業務妨害罪と侮辱罪で公判請求されました。 この示威活動が正当な政治的表現行為として違法性が阻却されるかなどが争点になりましたが、 裁判所はいずれも有罪と認定して、その判決が確定しています (京都地判平成23年4月21日)。(3) 平成28年6月3日に本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律 (いわゆる「ヘイトスピーチ解消法」)が制定され、国と地方公共団体に対し相談体制の整備や教育、啓発活動の充実に取り組むことを責務と定めているものの、ヘイトスピーチそのものの禁止規定や罰則規定はありません。 もっとも、 法律により明確に禁止されていないとしても、 前述のように、 ヘイトスピーチによって民法上の不法行為が成立することがありますし、 刑法上の威力業務妨害罪や侮辱罪も成立することがあります。
コミュニティ・ハラスメントとは何でしょうか。裁判例としてどのような事例があるでしょうか。 裁判以外の救済手続があるでしょうか。
1 コミュニティ・ハラスメントとはコミュニティ・ハラスメントは、未だ成熟した用語であるとは言えませんが、ここでは地縁的な結びつきによる比較的小規模な共同体(地域社会やその内部の各種団体)において、多数の構成員が特定少数の構成員に対して共同して行ういじめや嫌がらせ、仲間外しや無視などのいわゆる村八分(共同絶交)を指すものと考えることとします。このような共同体の構成員は、必ずしもその意思に基づかずにコミュニティに組み込まれ、冠婚葬祭その他の行事や共有財産の管理等をめぐって相互に依存し緊密な人間関係を求められることがあります。 村八分の対象になると、深刻な精神的苦痛にさいなまれるほか、日常生活が脅かされることもありますが、 生活基盤がコミュニティにあるため離脱することも容易ではありません。2 裁判例村八分(共同絶交)は、古くから裁判例に登場しています。(1) 刑事では、①大判明治44年9月5日刑録17輯1520頁をはじめ、共同絶交の通告を名誉や自由に対する加害の告知に当たるとして脅迫罪(刑222条、暴力処罰1条1項) の成立を認めた裁判例があります(多くは戦前のものですが、戦後のものとしては、②大阪高判昭和32年9月13日高刑集10巻7号602頁等)。共同絶交が被絶交者の非行その他正当な理由によるものである場合は、違法性がなく脅迫罪は成立しないと考えられています (③ 大判大正2年11月29日刑録19輯1349頁、 ④ 福岡高判昭和29年3月31日高刑集7巻2号217頁等)。(2)民事では、名誉や自由、 人格権の侵害等の理由で (共同) 不法行為による損害賠償責任や人格権に基づく差止めが問題になります。中心になるのは、 精神上の損害の賠償 (慰謝料) ですが、 これを認めたものとして、古くは⑤ 大判大正10年6月28日民録27輯1260頁や⑥ 東京高判昭和27年5月30日下民集3巻5号730頁があります。住民の多数が共同して絶交の決議をして通告し、これを実行したことは、被絶交者の名誉や自由を侵害する不法行為にあたる旨判示しています。 最近の裁判例として、 ⑦ 津地判平成11年2月25日判夕1004号188頁は、12世帯が生活する地区において、 地区外からの転入者との交際を契機に地区住民から様々な糾弾を受けた者が、住民全員の会合で共同絶交を宣言され、 親族による謝罪を執拗に要求されたりした事案です。 一連の行為は社会通念上許容される範囲を超えた「いじめ」ないし「嫌がらせ」 で、人格権侵害に基づく共同不法行為の成立を認め、慰謝料30万円と弁護士費用3万円の支払いを命じました。⑧大阪高判平成25年8月29日判時2220号43頁 (原審⑨神戸地社支判平成25年3月26日判時2220号46頁) も、 15世帯で構成される隣保において2世帯の住民に対し共同絶交等が行われた事案で、⑦とほぼ同様の論旨で共同不法行為による慰謝料40万円と弁護士費用4万円の支払いを命じました。財産上の損害の賠償を認めた裁判例もあります。 ⑩ 熊本地人吉支判昭和45年3月24日判時599号72頁は、部落で食料品等の小売りを営む者が、商品を買わないボイコット(不買同盟) を中核とする共同絶交を受けたため、廃業して部落外への転居を余儀なくされた事案で、家屋の解体移築費用と営業上の逸失利益の賠償を認めました (慰謝料と弁護士費用も認めています。)。人格権に基づく差止めを認めた裁判例として、 ⑪ 新潟地新発田支判平成19年2月27日判夕1247号248頁があります。 村内の約36戶で構成される集落で、恒例行事からの脱退を申し出た者らに対し、集落のごみ収集箱や駐車場等の施設の使用禁止等の決議をして通知し、これを実行した事案です。 人格権としての利益の侵害を未然に防止するため、これらの行為の差止めを認めました (20万円の慰謝料も認めています。)。被告らが、 村から2度にわたりやめるように勧告を受けたのに従わず、 本人尋問においても同様の態度を示したことなどを考慮したものです。3 裁判以外の救済手続⑧⑨や10の事案では、法務局の人権相談も利用されたようです。 これは、人権侵犯事件について調査し、 被害者等に対する援助や相手方等に対する勧告等の措置を講じるものです (人権侵犯事件調査処理規程(平成16年法務省訓令第2号))。 平成30年の村八分事案の相談は24件でした(平成30年における「人権侵犯事件」 の状況について(概要)法務省の人権擁護機関の取組~)。また、弁護士会や日本弁護士連合会の人権擁護委員会に対する人権救済の申立てが利用されることもあります。 人権擁護委員会では、事案を調査したうえ、必要に応じて勧告等を行います。 最近では、平成29年11月に大分県弁護士会が同県内の農村部の自治区 (町内会)に対し、平成30年8月に奈良弁護士会が天理市内の自治会に対し、いずれも村八分事案に関して是正勧告を行い、話題になりました。これらの救済手段は、関係者の任意の協力を得て実施されるものですが、柔軟な対応により自主的な解決を促すことが期待できます。
スモーク・ハラスメントとは何でしょうか。 裁判例としてどのような事例があるでしょうか。 また、 職場における受動喫煙により健康被害を被った場合、 会社に対して損害賠償を求めたり、その防止策を講じるように要求することができるでしょうか。
1 はじめにスモーク・ハラスメント (略称「スモハラ」)とは、非喫煙者が、職場などにおいて自己の意思に反して、喫煙者から喫煙することを強制されたり、 たばこの煙にさらされるなど、いわゆる「喫煙に関する嫌がらせ行為」のことを意味します。 作家の山本由美子氏によって平成5年に提唱された和製英語であり、その後徐々に普及するようになりました。2 喫煙に対する社会的意識の変化たばこは嗜好品としての歴史も古く、かつては喫煙について社会は比較的寛容でした。 ところが、 たばこの煙の害が健康に与える影響が明らかになるにつれ、 社会の意識も大きく変化し、スモハラの中でもとりわけ受動喫煙は、一般的に家庭や職場で大きな問題となっています。 特に最近では、職場における受動喫煙の問題が大きくクローズアップされるようになりました。3 法的規制このようなことから、 政府は平成8年2月、 労働省 (当時)の 「職場における喫煙対策のためのガイドラインについて」と題する通達(平成8年2月21日基発第75号)により、事務室や会議室に原則として禁煙の措置を講じ、受動喫煙を避けるよう求めたり、 平成15年5月1日には、健康増進法が施行され、その25条において、多数の者が利用する施設の管理者に対し、受動喫煙防止に必要な措置を講じる努力義務が定められました。また、厚生労働省は同月9日、「喫煙対策に関心をもって、適切な喫煙対策が労働者の健康の確保と快適な職場環境の形成を進めるために重要であることを、機会のあるごとに全員に周知するとともに、対策の円満な推進のために率先して行動すること」 を求めるガイドラインを定めました。平成15年の健康増進法の制定と前後して、 各地で後述のような裁判紛争も生じるようになり、公的機関は勿論のこと、民間でも受動喫煙対策を進める会社が増えてきています。このような状況を踏まえ、 平成26年には労働安全衛生法が改正され、受動喫煙を「室内又はこれに準ずる環境において、 他人のたばこの煙を吸わされること」と定義づけるとともに、事業者に対し、 その防止のため「当該事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずるよう努める」努力義務が定められ (労安68条の2)、 平成27年6月1日から施行されています。さらに平成30年7月には、 「望まない受動喫煙をなくす」ことを目的として健康増進法の一部を改正する法律 (平成30年法律第78号) が成立し、次のとおり令和2年4月1日の全面施行に向けた規制が段階的に進められることになりました。 すなわち、 令和元年7月1日から学校・病院・児童施設等、 行政機関においては原則敷地内禁煙が、 令和2年4月1日からは上記以外の施設等(一部例外施設を除く)について原則屋内禁煙がそれぞれ義務付けられることになり、違反者に対しては所要の罰則が科せられるなど、これまで努力義務だった同法の受動喫煙防止が法的義務に格上げされることになりました。 なお、 改正法に関する詳細については、厚生労働省のホームページを参照してください。4 裁判例地裁レベルではいくつか裁判例も出ていますが、以下に見るように、結論は事案により様々です。(1) 京都簡易保険事務センター (嫌煙権) 事件 (京都地判平成15年1月21日労判852号 38頁、 大阪高判平成15年9月24日労判872号88頁)この事件は、郵政事業庁 (当時)の職員で京都簡易保険事務センターに勤務していた原告が、 庁舎内における受動喫煙によって健康上の被害を被っているとして、被告国に対し、 安全配慮義務違反ないし人格権である嫌煙侵害または不法行為に基づき、全庁舎内部を禁煙とする措置をとることを求めるとともに、 被告が安全配慮義務を怠ったことによる慰謝料として50万円の損害賠償を求めた事案です。この判決においては、原告側の主張する禁煙(受動喫煙拒否)請求権が法的に認められるか否かが最大のポイントとされました。 判決では、本件センターがとっていた 「空間的分煙」 措置としての喫煙室の設置以上に、 庁舎内の全面的禁煙措置をとらないことをもって安全配慮義務に違反するとはいえないとして、結論的には原告の請求をいずれも退けましたが、「禁煙請求について安全配慮義務を根拠に危険を排除するための措置をとることができると解する余地がある」 とし、 また、 「受動喫煙を拒む利益も法的保護に値するものと見ることもでき、······その利益が違法に侵害された場合に損害賠償を求めることにとどまらず、人格権の一種として、受動喫煙を拒むことを求め得ると解する余地も否定することはできない」 と判示しています。(2) 江戸川区(受動喫煙損害賠償) 事件 (東京地判平成16年7月12日 判 878号5頁)この事件は、江戸川区の職員である原告が、 受動喫煙による急性障害が疑われるとの医師の診断書を上司に提出し、 執務室の外に喫煙室を設置して室内を禁煙とするよう求めたものの、 速やかに職場環境を改善しなかったとして、 安全配慮義務違反ないし不法行為を理由に、 被告区に対して医療費および慰謝料の一部として31万5650円の損害賠償を求めた事案です。この事件においては、 原告に対する被告区の安全配慮義務違反の成否と違反が認められた場合の原告の損害の範囲が主な争点となりました。判決では、職員の受動喫煙からの保護について区の負う安全配慮義務違反の有無については、受動喫煙の危険性の態様、程度、 被害結果と当局の分煙措置等の具体的状況により決すべきものとされ、 原告が受動喫煙による急性障害が疑われるとの医師による診断書を示し、何とかして欲しいと申し出たことにより、 被告としては、原告が執務室内において受動喫煙環境下に置かれる可能性があることを認識し得たとして、被告の安全配慮義務違反を認定するとともに、かかる安全配慮義務違反と相当因果関係にある損害として、 原告が医師の診断書を提出した時期以降の損害(5万円)のみを認めました。(3) 積水ハウス事件 (大阪地判平成27年2月23日労経速2248号3頁)この事件は、民間会社の従業員である原告が被告の会社に対し、 受動喫煙症等を罹患させ、関節痛や手首等の機能障害を生じさせたとして、安全配慮義務違反に基づく290万円の損害賠償 (通院慰謝料180万円と後遺障害慰謝料110万円) を求めた事案です。この判決では、被告が法改正等を踏まえ、工場内で受動喫煙状態になることがないように禁煙化するなど相応の受動喫煙防止策を講じてきていることを理由に、 原告が被告での勤務において受動喫煙状態を強いられていたとまでは評することはできず、被告が受動喫煙対策に関する安全配慮義務に違反したとまでは認められないと判断されました。5 まとめ以上の裁判例に見られるように、職場における受動喫煙により従業員が健康被害を被った場合、 職場に対して損害賠償を求めることができるか否かは、職場に従業員に対する安全配慮義務違反が認められるか否かにより異なりますが、裁判所としては、 江戸川区(受動喫煙損害賠償)事件の判決が示したように、 職場の安全配慮義務違反の有無は、受動喫煙の危険性の態様、 程度、 被害結果と職場の分煙措置等の具体的状況により決せられるという考え方に従って利益衡量しながら個別具体的に判断する傾向にあるものと思われます。 ただ、たとえ努力義務ではあっても労働安全衛生法が改正され、 たばこの煙が健康に与える影響に関する医学的知見が一定程度確立された今日的状況に加え、健康増進法の改正により受動喫煙防止が法的義務に格上げされたことを踏まえるならば、受動喫煙防止対策を一切講じずに事態を放置していたような場合には、職場の安全配慮義務違反が認められる可能性が高いと言えるでしょうし、 京都簡易保険事務センター (嫌煙権) 事件の判決が示したように、場合によっては、 安全配慮義務ないし人格権を根拠に、 職場に対してその防止策を講じるように要求できる余地も十分あり得るのではないでしょうか。なお、 職場における受動喫煙の事例ではありませんが、 マンションにおける受動喫煙が問題となった事例があります。 マンション内の原告の居室の真下に居住する被告が、 ベランダで喫煙を継続していることにより、原告の居室ベランダおよび居室内に煙が流れ込み、 体調を悪化させ、精神的肉体的損害を受けたとして、被告に対し慰謝料150万円を請求した事案において、 裁判所は、 被告が、 原告に対して配慮することなく、自室のベランダで喫煙を継続する行為は、原告に対する不法行為になると認定し、 慰謝料5万円の支払いを命じました (名古屋地判平成24年12月13日)。 不法行為を根拠とするものであり、いわゆる受忍限度論が問題となるケースですが、 他の居住者に著しい不利益を与えていることを知りながら、 喫煙を継続し、 何らこれを防止する措置をとらなかったことを問題としたものです。
カスタマー・ハラスメントとは何でしょうか。裁判例としてどのような事例があるでしょうか。
1 カスタマー・ハラスメントとはカスタマー・ハラスメント(略称「カスハラ」)とは、顧客による嫌がらせのことで、理不尽な言いがかりをつけて店員に土下座を強要したり、あるいはクレームを延々と述べてその対応のために店員を長時間拘束したりするなど、 様々な態様があります。 葉厚生労働省の職場パワーハラスメント (パワハラ)防止対策検討会においても、 「顧客や取引先からの暴力や悪質なクレームなどの著しい迷惑行為については、労働者に大きなストレスを与える悪質なものがあり、 無視できない状況にある」 として、 「顧客や取引先からの著しい迷惑行為について事業主に取組を求めることや社会全体の気運の醸成などの対応を進めるためには、職場のパワーハラスメントへの対応との相違点も踏まえつつ、関係者の協力の下で更なる実態把握を行った上で、具体的な議論を深めていくことが必要である。」 と指摘されており(厚生労働省 「「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」 報告書」 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11909500-Koyoukankyoukintoukyoku-Soumuka/0000201264.pdf(2019.1.20))、 今後の議論が注目されます。2 裁判例(1) 東京高決平成20年7月1日 (判夕1280号329頁、 判時 2012号70頁、 金法1852号57頁)この事件は、自動車損害保険契約に基づく保険金請求に関する交渉に関し、顧客が保険会社の従業員に対し多数回かつ長時間にわたり架電をするなどしてその業務を妨害し、 保険会社の業務に支障が生じた等として、 保険会社が顧客に対し業務妨害の禁止を求めて仮処分の申立てをした事案です。この事件においては、法人に対する業務妨害行為の差止めが、いかなる根拠、要件で認められるかが争点となりました。決定では、 法人に対する行為につき、 ① 当該行為が権利行使としての相当性を超え、②法人の資産の本来予定された利用を著しく害し、かつ、これら従業員に受忍限度を超える困惑・不快を与え、 ③ 「業務」に及ぼす支障の程度が著しく、事後的な損害賠償では当該法人に回復の困難な重大な損害が発生すると認められる場合には、この行為は「業務遂行権」に対する違法な妨害行為と評することができ、 当該法人は、当該妨害の行為者に対し、 「業務遂行権」に基づき、当該妨害行為の差止めを請求することができるとしました。(2) 大阪地判平成28年6月15日 (判時2324号84頁)この事件は、職員への暴言や膨大な数の情報公開請求などを繰り返し、大阪市住吉区役所の業務に支障をきたしたとして、大阪市が大阪府内在住の男性に対して面談強要行為等の差止めとともに損害賠償を求めた事案です。この事件においては、業務遂行権の侵害の有無や損害およびその額が争点となりました。判決では、上記決定とほぼ同様の要件を用いて差止め請求を認めました。一方で、損害については、被告男性の行為が情報公開請求やその権利行使に付随して行われているという事情に鑑み、その額を立証することが極めて困難であるとして、民事訴訟法248条に基づき、80万円を損害額とするとして請求を一部認容しました(請求額は賃金相当額ないしは超過勤務手当相当額を根拠に算定した190万9540円でした。)。 他にも、刑事では強要罪や偽計業務妨害罪の成立を認めた裁判例が多数存在します。3 法的対応以上の裁判例にみられるように、カスハラに対する法的対応としては、事後的に刑事事件として被害届を提出することや、損害賠償を請求することのほかに、事前に当該行為を差し止めることも検討する必要があります。また、企業側もこのような悪質なクレーマーへの対応を現場の従業員に任せきりにしているようであれば、会社が適切な対応をしなかったとして、従業員から労働契約上の「安全配慮義務違反」による損害賠償を請求される可能性もありますので、注意が必要です。





























